「重金属はアルカリにすれば沈む」と覚えたのに、なぜわざわざ最適なpHを探すの?と迷いませんか。カギは、金属ごとに「いちばん沈むpH」が決まっているからです。そこを整理します。
この記事の要点
重金属の排水処理の基本は、アルカリ剤でpHを上げて難溶性の水酸化物にし、沈めて取り除くことです。決め手はpH調整です。
カドミウムや鉛などの重金属を含む排水は、そのまま流せません。代表的な処理が、水に溶けにくい水酸化物に変えて沈める方法です。
金属イオンにアルカリ剤(消石灰やカセイソーダなど)を加えてpHを上げると、金属は水酸化物(難溶性)になって沈みます。この沈んだフロックを凝集沈殿で固液分離します。
ここで「アルカリにすればよい」だけでは足りません。どのpHにするかが処理の成否を分けます。
金属水酸化物の溶解度(水への溶けやすさ)は、pHによって大きく変わります。
多くの重金属は、pHを上げていくと溶解度が下がって沈みやすくなりますが、溶解度が最小になるpH(最適pH)を外すと、また溶けやすくなります。
とくに注意が必要なのが両性金属です。亜鉛・アルミニウム・鉛・クロム(3価)などは、pHを上げすぎると水酸化物が再び溶け出してしまいます。
つまり、溶解度はpHに対してU字型になり、底(最小)が最適pHです。低すぎても高すぎても溶けて残ります。
両性金属の溶解度はpHに対してU字型。底(最小)の最適pHで最もよく沈み、低すぎても高すぎても溶けて残る。
実際の処理では、対象の重金属がいちばん沈むpH(溶解度が最小になるpH)に合わせます。多くの場合、凝集pHは9〜10付近に置かれます。
ただし、複数の金属が混ざっていると、それぞれの最適pHがずれていて、1つのpHでは全部を最小にできないことがあります。
そこで、共沈剤(塩化鉄(Ⅲ)など)を加える方法がよく使われます。共沈剤を入れると、処理できるpHの幅(処理pH領域)が広がり、処理水質が安定します。
排水にキレート剤(金属イオンを強く包み込む薬品)が含まれていると、話が変わります。
キレート剤が金属イオンを安定な錯体としてつかまえてしまうため、pH調整だけの単純な水酸化物法では、重金属が沈まず除去できなくなります。
この場合は、キレートを壊す処理を前段に入れる、あるいは置換法など別の方法を組み合わせて対応します。
重金属の水酸化物沈殿は、水質有害物質特論で、凝集pH・共沈剤・両性金属の再溶解として問われます。
令和7年度の水質有害物質特論(問10)では、「重金属は難溶性水酸化物として除去される」「凝集pHは9〜10」「共沈剤として塩化鉄(Ⅲ)を使う」といった記述が並ぶなかで、凝集pHを『対象物質の溶解度を最大にするpH』とする記述が誤りとして問われました。正しくは、溶解度を最小にする(いちばん沈む)pHに合わせます。
混同しやすい用語
溶解度を「最小」にするpH と 「最大」にするpH
沈殿させたいのですから、合わせるのは溶解度が最小になるpH(=いちばん溶けにくく、いちばん沈む)です。
「溶解度を最大にするpH」では、いちばん溶けてしまうpHになり、逆です。沈殿処理は『溶けにくくして沈める』──最小と覚えます。
重金属を水酸化物として沈めるとき、凝集pHは溶解度がどうなるpHに合わせるか。
答え:溶解度が最小になる(いちばん沈む)pH
沈殿させたいので、いちばん溶けにくいpHに合わせます。「溶解度を最大にするpH」は逆で誤りです。
両性金属(亜鉛・アルミ・鉛など)で、pHを上げすぎると起こることは何か。
答え:水酸化物が再溶解して(また溶けて)、除去できずに残る
両性金属の溶解度はU字型で、最適pHを高い側に外すと再び溶け出します。低すぎても溶けるので、最適pHに合わせます。
重金属の水酸化物沈殿は、pH調整が決め手です。
金属ごとに溶解度が最小になる最適pHがあり、そこに合わせて沈めます。両性金属はpHを上げすぎると再溶解するため、最適pHを外さないことが大切です。
複数金属が混ざるときは共沈剤(塩化鉄(Ⅲ)など)で処理pHの幅を広げ、キレート剤があるときは単純な水酸化物法では沈まないので別処理を組み合わせます。
参考
※ この記事の確認日:2026年6月
まちがえやすいポイント
沈殿させる凝集pHを、溶解度の最大/最小で取り違えさせる記述が狙われます。
凝集pHを『対象物質の溶解度を最大にするpH』とする記述が誤りで、正しくは溶解度を最小にする(いちばん沈む)pHに合わせます。